なぜ企業は副業を禁止するの?
26.01.16

「働き方改革」の旗振りとともに、政府が「副業・兼業の促進」を打ち出してから数年が経ちました。皆さんも、一度は「自分も何か始めてみようかな」と考えたことがあるのではないでしょうか。しかし、いざ勤め先の就業規則を確認してみると、副業禁止だったという方も少なくないでしょう。
なぜ、これほどまでに世の中で副業が推奨されているにもかかわらず、多くの企業は副業の門戸を閉ざし続けているのでしょうか。本記事では、企業が副業を禁止する事情から、今後の社会の変化までを解説します。

副業を禁止する割合
まずは、現在の日本における企業の「副業解禁」のリアルな数字を見ていきましょう。
株式会社みらいワークが実施した「副業・兼業に関する人事制度の実態調査」によると、副業・兼業「禁止」企業は4割超だが、2割が新制度を準備中であることが分かりました。

引用:株式会社みらいワーク
副業解禁の転換点となったのは、2018年に厚生労働省が「モデル就業規則」を改定したことにあります。それ以前は「許可なく他の業務に従事しないこと」という文言が一般的でしたが、現在は「届け出れば認める」という形式へと移行する企業が増えています。
しかし、それでもなお副業に対して前向きな姿勢を取らない企業も少なくありません。次の次章では、企業が副業を禁止する理由について解説します。
副業を禁止する理由
企業が副業を禁止する理由は、主に「労働時間の管理不足による過労リスク」「機密情報の漏洩や利益相反」「業務への集中力欠如と生産性低下」の3点に集約されます。本章では各理由について詳しく解説します。
労働時間管理の複雑化と健康確保義務
企業が副業を容認しない理由の一つに、「労働時間の通算ルール」が挙げられます。現在の日本の労働基準法では、自社での勤務時間と、他社(副業先)での勤務時間を「通算」して計算しなければならないという決まりがあります。例えば、本業で8時間働いた後、副業先で2時間働いた場合、その2時間は法律上「時間外労働(残業)」として扱われます。そして、その割増賃金(残業代)を支払う義務が発生したり、36協定の残業上限を超えてしまったりする責任を、企業側が負わなければならない場合があります。
また、企業には社員の「安全配慮義務」があります。副業によって睡眠時間が削られ、本業の最中に居眠りをして事故を起こしたり、過労で体調を崩したりした場合、本業の企業がその責任を問われるリスクがあります。「自己責任でやります」という社員の言葉があったとしても、法的には通用しない場面が多いのが現実です。企業は社員の命と健康を守るために、どれだけ働いているかを把握する義務がありますが、副業先の労働時間まで正確に把握し、調整するのは事務的に極めて困難な作業となります。
この「健康管理と労働時間管理」こそが、多くの企業が副業解禁の障壁となっています。
秘密保持と競合避止義務衝突のリスク
次に企業が懸念するのが、情報の取り扱いです。社員が副業を行う際、本業で得たノウハウ、顧客リスト、開発中の新製品情報などが、意図せずとも外部へ流出してしまうリスクがあります。
本業で得た知識を副業で活かすのは、ワーカーにとっては「スキルの活用」ですが、企業から見れば「自社の資産の流用」に見えてしまうことがあります。これを防ぐために多くの企業では「競合他社での副業は禁止」といった条件をつけますが、それでもリスクはゼロにはなりません。また、副業に熱中するあまり、本業の顧客を副業先に誘導するような「利益相反行為」が起きる懸念もあります。
もちろん悪意がなくても、飲み会の席やちょっとした相談の中でポロッと口を滑らせてしまう可能性は誰にでもあります。信頼関係がベースにあるとはいえ、ひとたび情報漏洩が起きれば数億円、数十億円の損失に繋がる可能性があり、経営判断として「副業禁止」という方針を採用するケースも少なくありません。
「人材流出」への不安
社員には、勤務時間中はその能力を最大限に本業に注ぐ「職務専念義務」があります。しかし、副業が認められると、どうしても意識が分散してしまいます。昨晩の副業が忙しくて本業の会議中に頭が回らなかったり、勤務時間中にこっそり副業の連絡を返してしまったり……といった事態を招く可能性もゼロではありません
また、「副業で稼げるようになると、会社を辞めてしまうのではないか」という不安も根強くあります。特に優秀な人材ほど、副業を通じて自分の市場価値に気づき、他社へ引き抜かれたり独立したりする可能性が高まります。
このように「人材流出」への不安が、副業禁止というルールを後押ししているともいえるでしょう。
副業の今後の動向
結論から言えば、一時的な揺り戻しはあっても、長期的なトレンドとしては「解禁」と「多様化」の流れは止まらないでしょう。
今後は、一人の人間が一つの会社に100%の時間を捧げるモデルよりも、複数のプロジェクトに関わる「オープン・タレント・エコノミー」の考え方が主流になると考えられます。実際に、副業を認めることで「自社にはないスキルを外で身につけてきてくれる」「社員の満足度が上がり、離職率が下がった」という成功事例が次々と報告されています。
また、法制度の整備も進んでいます。現在は複雑な労働時間の合算ルールも、将来的にデジタル管理や法改正によって簡略化される可能性があります。政府も「リスキリング(学び直し)」の手段として副業を強く推奨しており、個人のキャリア自律を促す動きは止まりません。つまり、企業は「禁止するかどうか」を悩む段階から、「いかに安全に、かつ効果的に解禁するか」という運用ルールを模索する段階へと移行していくでしょう。
まとめ

本記事では、なぜ多くの企業が副業を禁止し続けているのか、その裏にある複雑な理由とこれからの展望について詳しく解説してきました。
企業が副業を制限するのは、決して社員の自由を奪いたいからだけではありません。
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過労や健康被害による法的責任の回避
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機密情報の漏洩やライバル企業への利益流出の防止
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本業の生産性低下や人材流出への根強い不安
こうした現実的なリスクを、現在の日本の労働環境や法律の中で完全に解消できていないことが、重い扉を閉ざしたままにしている原因です。しかし、時代は確実に「個人のキャリア自律」へと向かっています。人材不足が深刻化する中で、副業を認める柔軟な企業ほど、多様な才能を引き寄せ、成長し続けることができるでしょう。
もし皆さんが「どうしても副業に挑戦したい」と考えているなら、まずは会社のルールを正しく把握し、リスクを最小限にする方法を探ることが大切です。ルールを破って隠れて行うのではなく、時代が変わる波を捉えながら、自分のスキルを磨き続けていきましょう。




















